東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)202号 判決
審決を取消すべき事由の有無について判断する。
(取消事由(一)の主張について)
1 まず、原告は、審決が本件商標を「全体として一連不可分の造語より成る商標」として認識したことが誤りである旨主張する。
前記争いのない事実に徴すると、本件商標は、別紙目録(一)に示されるとおり「ハイゼツト」なる五つの片仮名文字を等間隔で横書きして成る比較的短い簡明な構成であり、かつ、これを構成する各片仮名文字は同一の書体、同一の大きさであることが明らかである。
本件商標が、右のとおり片仮名文字のみから成る比較的短い、きわめて簡明な構成であること、さらに強いてこれを分離してみても、その前半部の「ハイ」は、精々「高級な」もしくは「上等な」の意味を表わす英語(high)としてまた、後半部の「ゼツト」はアルフアベツトの「Z」として認識されるにすぎず、この「ゼツト」なる構成部分がそれ以上に特別の観念を表わす言葉としてひろく認識されているものとは認められない(「Z」の欧文字が特別の意味もしくは観念を表わすとする原告の主張については、のちに詳述する。)。そうだとすると、本件商標は、審決の判断の如く全体として一連不可分の造語から成る商標とみるのが相当であり、きわめて自然に「ハイゼツト」と称呼でき、何ら冗長の感じを与えるものでもないから、本件商標からは「ハイゼツト」という一連不可分の称呼のみを生ずるものとみるべきであつて、いかに簡易迅速を旨とする取引の実情を考慮に入れても、原告主張の如く「ハイ」と「ゼツト」とが分離され、「ハイ」または「ゼツト」の称呼が生ずるものではないというべきである。
この点について、原告は、本件商標の構成のうちの「ゼツト」の部分からは「Z」の欧文字が認識され、かつ、この「Z」の欧文字からは、日本海海戦における東郷元帥の掲げた「Z」信号(Z旗)が想起されるから、一般取引者もしくは需要者が、「ハイゼツト」なる本件商標をみた場合には、右の観念を想起して「Z」を中心観念とする商標であると認識するとして、本件商標からは「ゼツト」印の称呼及び観念を生ずるものである旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第一三四号証及び甲第一三五号証によつても、本件商標が「ハイ」と「ゼツト」に分断され、右「ゼツト」に相応する「Z」の欧文字もしくは「ゼツト」なる称呼から、一般需要者が、原告主張の如き「Z信号」(Z旗)などの特別の意味もしくは観念を想起するものと認めることはできない(「Z」の欧文字もしくは「ゼツト」なる称呼が、原告の社標もしくは原告の製品を表わすものと一般需要者にひろく認識されていると認められないことは、のちに検討するとおりである)。
そうすると、本件商標は、「ハイゼツト」の一体不可分の造語から成る構成と認識され、全体として自他商品識別力を有する商標として機能しているものとみるべきであるから、本件商標からは「ハイゼツト」の一連の称呼のみが生じ、また、全体として特定の意味のない造語と理解されるとみるのが相当である。
一方、引用商標が別紙(二)に示すとおりの構成であることは当事者間に争いのないところであるから、たとえ、引用商標から「Z」の欧文字が認識され、そこから「ゼツト」なる称呼が生じる余地があるとしても、前叙のとおり、本件商標は、「ハイゼツト」なる一連不可分の造語商標と認識されるから、これを引用商標と対比すると、外観において明らかに異るうえ、称呼も相違するものとみられ、全体的に観察しても本件商標は引用商標と類似する商標とはいえない。
したがつて、右と同旨の判断を前提として、本件商標は、商標法第四条第一項第一〇号及び同第一一号証に該当するものということはできない、とした審決の判断は正当であり、審決には、何ら原告主張の如き違法はない。
なお、原告が引用する「ZETACE」なる商標登録出願に関する拒絶査定謄本(成立に争いのない甲第八号証の三、甲第一二号証の二の(ホ))の記載及びその他の登録商標例は右の判断を左右しうるものではない。
(取消事由(二)の主張について)
2 次に、原告は、被告が「ハイゼツト」なる本件商標をその指定商品に使用した場合には、一般需要者はこれをもつて原告の製品のうちのある特定の品位、品質を表示するものと認識するから、その出所につき混同誤認を生ずることが明らかである旨主張する。
成立に争いのない甲第三号証の一、二、甲第四号証の一、二、甲第一〇及び一一号証、甲第一三七ないし第一五〇号証並びに証人堀尾恒彦の証言を綜合すると、大日本臓器研究所の勝間外次郎が昭和一五年六月七日に、同じ大きさの黒横長方形を上下平行に配列し、これらを幅のある黒斜線で連結し、かつ下段長方形内にD・Z・Kの欧文字を白抜きした構成の商標を登録(以下、「登録第三三一四四九号商標」という。)したのち、昭和一七年三月三一日、株式会社大日本臓器研究所がこの商標権の譲受取得を登録し、さらに、同研究所は、昭和二三年三月二〇日に登録第三三一四四九号商標の連合商標として引用商標を登録出願したのち、昭和三六年一月三〇日に「株式会社大日本臓器研究所」から現在の原告の名称に改称されたこと、原告は、少くとも昭和三四年以降においては、前記登録第三三一四四九号商標を原告の製品に付して用いており、また、昭和三六年以降は、引用商標と同じ構成の標章を原告の社標として製品価格表等に印刷表示しておつて本件商標の登録出願前において、すでに右標章は「ゼツト」のマークと呼ばれていたことが認められる。
右事実によれば、本件商標の登録出願当時、原告の社標は原告の製品を表示する標章としても機能していたことが認められるが、しかし、「ゼツト」と呼べばすべて、原告の製品を表示するものと一般需要者の間でひろく認識される程に著名であつたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件商標が、引用商標と類似するものとは認められないことは前叙のとおりであり、かつ、原告の主張する如く著名な標章の構成の一部を含んだものとも認識されないから、被告が、「ハイゼツト」なる本件商標を指定商品に付して使用したとしても、一般需要者としては、これを原告の製品であると誤認する具体的な虞れがあるとみることはできない。
したがつて、本件商標が他人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれのある商標とはいえないとした審決の判断は正当であり、商標法第四条第一項第一五号に該当する旨の原告の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却する。